十万山の四季Ⅶ ~橋とトンネル~

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実は,ロードバイクでの九州1周を企てています。2020年9月には宮崎シーガイアから延岡までの単独行に成功したことに味を占め、10月中旬の連休を利用して更に延岡から大分・別府へ足を伸ばすことにしました。当初,延岡に宿泊し、翌日大分県佐伯市までのリアス式海岸線を行くつもりでした。しかし,あいにく雨天であったため、車に積んだままで佐伯市まで移動しました。連休2日目は、好天に恵まれました。佐伯市のホテルを出発し,海岸沿いの国道217号線で大分市を目指します。10月の大分の海は、天草の海に比べてブルーが薄い気がしました。無事に、津久見の街を通り抜け、結構な坂道を、十万山で鍛えた脚で登って行きました。峠と思われる山の急斜面が迫り、右カーブの斜面を登りきった処に、トンネルの真っ黒な口が大きく開いていました。臼津トンネルです。これを抜けると、降り坂道で一気に臼杵市へと辿りつけるはずです。

トンネルに車が入ってくると、たとえ、それが軽自動車であったとしても、後ろから巨大怪獣に追いかけられているような轟音がします。車道を走るのは危険ですから、トンネルに入る時には必ず、その左・右どちらかに歩道が造られていないかを確認します。国道217号線の臼津トンネルには、左・右どちらにも歩道はなく、車道から30cmほど嵩上げされた、50cm幅の、歩道と呼ぶにはあまりにも狭すぎる路側帯があるだけでした。車道も狭いため、仕方なく、その路側帯を走ることにしました。5m間隔くらいで、トンネルの継ぎ目と思われる部分が10cmくらい盛り上がっています。継ぎ目を超えるたびに、ロードバイクはふらつきます。出口は、しばらく走っても見えてきません。石材を積んだような大型のトラックが右側を次々に、後ろから、臼杵方面へ通り去って行きます。ものすごい轟音です。

よろけて右側の車道へ転落するよりはと、無理やり左側に傾けたところ、左肘をトンネルの壁に擦りつけてしまいました。半袖だったため、焼けるような痛みが走ります。

やがて、リズムを覚えました。口ずさむのは、ペダルを踏むたびに、「ゆっくり・ゆっくり」「ゆっくり・ゆっくり」と自分に語りかける言葉です。その呪文を唱えながら、スピードと、段差を乗り越えるときのショックの治め方との折り合いをつけるのです。

ようやく、暗闇の遠くに光る一点として出口が見えてきました。はじめのうち,その光の点はなかなか大きくなりませんでした。もうどこまで続いても通り抜けられる自信が生まれた頃、やっとその光は、ペダルを漕ぐたびに大きくなっていきました。

トンネルを出ると、予想通り、一気の降り道でした。下り坂を時速50kmオーバーで降りきると,そこには、セブンイレブンがあります。休憩をとった後、佐賀関半島方面へと、再び漕ぎ出しました。

ロードバイクで旅をする際、最も怖いと感じるのは、「橋」と「トンネル」です。どちらも2つの世界の橋渡しとなり、異世界同士を繋げていることが共通点ですが、費用の問題もあって、歩行者や自転車用のスペースはお世辞にも贅沢とはいえません。「橋」と「トンネル」では、ロードバイクを降りて、押していく慎重さが必要だと感じています。異世界へ連れ去られてしまわないためにも…。

天草医報2021年5月号へ掲載予定 2021年5月4日校了

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