アルコールは日本酒を除きほとんどの種類をたしなみます。日本酒以外はアルコールではないなどとおっしゃる日本酒好きの方もおられますが,私の場合,大学時代,剣道試合の打ち上げで,訳もわからず日本酒を飲みすぎて救急搬送されたトラウマのためか,日本酒だけは飲めなくなってしまいました。その結果,それ以外のビール,焼酎,ワインが私の主なアルコール源となっています。食事時に飲むアルコールは気分を高揚させ,仕方なく一人で寂しく飲むときも不思議と賑やかな気分となります。ましてや,人と一緒の時には大変騒々しくなってしまい,翌朝反省することも度々です。天草で,スナックのカラオケなどを楽しむ時には贅沢は言えず,専らウイスキー水割りを飲むことになります。一方,博多のホテルなどのバーで飲める場合には少々様相が変わってきます。
メニューには,ブルーやオレンジ,レッドなど鮮やかな色が目を惹くカクテルの写真が何十となく載せられています。私には,カクテルなんて女性の飲み物だろうという認識しかありませんでした。ただ,塩分親和性であるためソルテイードッグを注文したことはありました。
ところで,妻の父は,その昔,北九州市の黒崎駅前の自社ビルで,バーのオーナーバーテンダーをしていました。ある時,よく使い込まれた洋銀製のカクテルシェーカーを妻が貰い受けました。それは,我が家の食器棚の隅にホコリをかぶったまま長年放置されていました。ある日のこと,夫婦で眠れぬまま再び起き出して何か飲もうかとなりました。ワインやスパークリングは栓を開けてもボトルを飲み干すほどの自信はなく,焼酎では夜のしっとりとした雰囲気にそぐわず,迷っているうちに,妻が時々寝酒用にと持っていたジンのことを思い出しました。たまたま冷蔵庫の野菜室にはレモンも入っていました。妻が,レモンとジンでカクテルを作ってみようかと提案しました。どんな飲み物になるかは全くわからなかったのですが,食器棚にある鈍い光を放つ洋銀製のシェイカーを取り出し,中に氷とジンとレモンの絞り汁を投入。見よう見まねで,かつての義父の姿を思い出しながら,シェイクを始めました。これも義父にもらっていた底が丸く浅い2つのカクテルグラスに均等に注ぎます。それに口をつけて飲んだ時の驚き。こんなに美味しい飲み物がこの世にあったのかと感激しました。以来,夜遅くなかなか眠れぬ夜にはレモンとジンのカクテルを二人で楽しむようになりました。
あるメーカーの講演会が博多でありました。情報交換会での食事で腹は満ちてはいますが何か物足りず,ホテルのバーへと向かいました。バーカウンターの一隅を占領し,初めて,ジンベースのカクテルを注文することにしました。我が家で馴染んだレモンとジンのカクテルはないものかと探してみますが,メニューにはありません。カウンター越しにバーテンダーに尋ねてみました。「レモンとジンのカクテルは,作ればできます。名前はありません。でも,似たような組み合わせとして,ライムとジンで作る”ギムレット”と名前のつけられたカクテルはあります。」とのこと。じゃあ,それをお願いしますと注文しました。バーテンダーは,ちなみにジンは選ばれますか?と聞いてきます。ジンに種類があることをここで初めて知りました。「何十種類もある中で,ゴードン,タンカレー,ビーフィーター,ボンベイサファイアなどが,代表的ですね。」と教えてくれます。ちなみに,そのバーでのギムレットには,特に注文がなければビーフィーターを使っているとのこと。私は,そのギムレットとは別に,レモンとジンでカクテルを特別に作ってもらい,両者を飲み比べてみました。それは,ギムレットよりも甘みはあるが爽やかさはありません。一方ギムレットは,酸味は薄いけれど柑橘系の爽快な香りがします。レモンの持つ酸味とライムの持つ爽快さを併せ持つには,黄色くなる前の契りたての青いレモンを使えばいいのではと考えました。そこで,我が家の庭にレモンの木を植えました。
レモンの苗木を植えて今年の夏3年目になり,ようやくレモンの収穫をすることができました。契りたての青いレモンは,米津玄師の歌「レモン」とは異なり,苦い匂いなどせず,甘くて爽やかなアロマの香りがします。妻は,思いきりよくレモンを真っ二つに切り割り,それを尖った富士山のようなレモン絞り器に体重をかけて力一杯押し付け回します。少量のレモン汁が取れます。我が家のジン,ボンベイサファイアをメジャーカップで測ります。洋銀のシェイカーに「財宝」の水で作った氷と我が家で採れた青いレモンの絞り汁,ジンを入れました。パジャマをきたままの妻は,思いきりよくシェイクします。味は,読まれるみなさまの想像にお任せします。
ちなみに,ギムレットとは,19世紀末英国海軍の軍艦に乗船勤務していた軍医が,兵員があまりにも酒を飲みすぎるので,ライム汁と混ぜて作るよう指導したのが,その始まりだそうで,その軍医の名前からギムレットと名付けられたとのこと。私も,ギムレット先生の恩恵を受けているようです。
掲載情報
掲載誌 | 天草医報 |
---|---|
掲載号 | 2018年9月号 |
発行ナンバー | 136 |