中洲徘徊録2 ~仰向けオプション断固拒否の巻~

去る9月中旬の土曜日のことです。いつものA君と中洲へかち込むことにしました。待ち合わせの前には優しい父親,誠実な夫として,福岡に住む娘と3人で夕食に。娘とは5時に博多駅「エノテカ」前で待ち合わせました。娘がゴマサバを食べたいと言うので,筑紫口を右に出てヨドバシカメラへと続く居酒屋へ。ビールと焼酎でだいぶいい気分になったところで,娘と妻に別れを告げ,博多口の「くうてん」直行エレベーター前で7時にA君と落ち合いました。地下鉄に乗り中洲川端駅で下車。特に行く当てもなかった私たちは,メインストリームに乗っかろうと,息をきらしながら階段を昇りました。

 中洲大通り入口では大勢の人で行く手を阻まれました。こんなに人の多い中洲は初めてです。何かのパンフレットを持つ人に聞いてみると今夜は中洲ジャズフェスタをやっているとのことで,人波に押されるがまま進んでいきました。考えあぐねた挙句,最初に行ったのは奇術の店スナック「N」でした。カウンターにA君と並んで座り,ウイスキーの水割りを注文しました。

 バーテンは,入れ替わりながら,様々な手品で我々を翻弄します。2人目のバーテンの時のことです。裏向きの52枚のトランプカードと表にしたジョーカーの2枚の計54枚のカードを,カジノデイーラーさながらにカウンター上に扇状に並べます。バーテンは,1枚だけ好きなカードを頭に思い浮かべてくださいと言います。その時私が思い浮べだのは「ダイヤの11」でした。理由はわかりません。不思議と何かリッチな気分がしたのです。バーテンは,カウンターのトランプをざっと集めてズボンの右ポケットに入れ,しばらくポケットの中で手をゴソゴソしていたかと思うと,その中から1枚のカードを私にそっと差し出しました。ゆっくり裏返してみてくださいと言います。恐る恐る裏返すと,そこにあったのはまさしく赤色の「♦のジャック」でした。狐につままれた気分でした。あまり他人のことを疑わない,私の性格のせいもあるのでしょう。そんなこんなで,様々な4人のバーテンの秘技に圧倒されたまま1万円少々の代金を支払い,店の階段を降りました。さて,2軒目です。前回行った熟キャバにでも行こうかと中洲交番前へとフラフラ歩きます。ところが,7階の熟キャバへ通ずるエレベーターのボタンは,何度その辺りを往復しても見当たらないのです。オレンジ色のボタンを目に焼き付けた筈なのに。そうこうしているうちに,南新地の道向かいに,ミニのノースリーブを着た若そうな娘がこちらを手招きしていることに気づきました。ついて行けば完全にボラれるバターンでしょう。リスクをとることも必要,たまにはボラれてみたいとの思いが頭をかすめます。しかも店の名前は,私の好きな井上陽水の歌「なぜか上海」を彷彿とさせる「夜上海中国式リラクゼーション」とあります。その名前に惹かれました。中国人系のお店なのでしょうか。料金表をみてA君と相談し,マッサージを受けることにしました。ノースリーブミニの姉さんの後をついて急な階段を上がります。部屋も廊下も黒いカーテンで狭く仕切られています。その一部屋に,二人とも入れられ,オプションの交渉が始まりました。次に訪れるであろうスナック又はクラブのことが気になっていた我々は,手短に30分コースでお願いすることにしました。姉さんは,しきりとオイルマッサージを勧めてきます。その勢いに押され,オイルマッサージのオプションを受け入れました。その後,姉さんは,急に妖しい目つきで「仰向けオプション」なるものを勧めてきます。姉さんの持つメニュー表には値段も名前も存在しないオプションです。ここでその日の徘徊が終了となりたくなかった我々はそれを断固拒否しました。その決然たる態度に諦めた彼女は,私をA君とカーテンで仕切られた別々の部屋へと案内しました。パンツ1枚になり,顔の部分だけ穴の開いたベッドに,うつ伏せになりました。先ほどの姉さんとは違うであろうと思われる女性の指が,オイルをかけた腰や肩を揉んでくれます。嬉しいことに本格的なマッサージです。酔った体にとても心地よく,ついウトウトしてしまいました。あっという間に30分が経過しました。「終わりました」と突然声をかけた彼女は,うつ伏せのままの私の耳元にそっと息を吹き掛けながら,またしても「仰向けオプション」を勧めてきました。ふと正気に戻った私は「要りません」と断固拒否しました。服を着て黒い仕切りのカーテンを開けると,A君も服を着て照れくさそうに笑ってこちらを向いて座っていました。お互い無事だったことを確認し,二人でしめて8千円也を支払いました。

 その後,昔通ったクラブにでも行こうかとあちこち逡巡しましたが,懐具合もやや不安になったため,帰ることにしました。途中,川端通りのアーケードでは四柱推命の占いを受けました。占い師のおばさんから,来年還暦の私はやや苦しい年になるだろうとのご託宣を受けました。結局,最後はホテルのバーで落ち着きました。

掲載情報

掲載誌天草医報
掲載号2018年9月号
発行ナンバー136
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