腕時計のことを「ウォッチ」、壁にかける時計のことを「クロック」と呼ぶのだと中学校で教わりました。
医師になって5年目の夏、長男を授かった記念にと、福岡天神ビルの1Fにあった時計店でシルバーの「ロレックス・オイスター・パーペチュアル・デイトジャスト」なるものを大奮発で購入したのが、自分にとって初めての「ウォッチ」でした。ちなみに、ロレックス・デイトジャストのデイトジャストとは、「機械式時計にもかかわらず、日付が変わった瞬間、日付の文字盤がカシャッと変わる」世界で唯一のシステムのことです。そのロレックスも、左腕に何となく違和感を覚えたため、父にプレゼントしてしまいました。
その後、2~3万円以下のシチズンやカシオの時計を何度か購入し、はめていましたが、どれも、どこかで外してしまい、いつのまにか失くしてしまうのです。その後、私が腕時計を失くしてしまう理由に気付いた妻は、博多阪急の時計店で私にウォッチを購入してくれました。ポイントはその軽さです。ソーラー電波時計のため、日付も時間も1秒たりとも狂いません。「SEIKO DOLCE」というしろものです。
2年前に亡くした義父は、ウォッチにこだわりのある人物でした。「フランク・ミューラー」「ブレゲ」「ロレックスサブマリーナ」「パテック・フィリップ」などを収集していました。私には全く縁のない物でしたが、義父は自分の死期をさとった頃、私の息子でもある二人の男の孫にその時計を託しました。
芸能人もよく利用するらしい博多・中洲のクラブで遊んでいたある時、嬢がしきりに私の左腕のウォッチを確認しようとすることに気付きました。「SEIKO DOLCE」であることをみて、彼女がふと安心する様な微笑みになったことを覚えています。おそらくウォッチで私を値踏みしたのだと、その後気付きました。
実父は4年前に亡くなったため、私は、30年前託していた「ロレックス」をオーバーホールに出しました。約10万円ほどかかりました。その時計を腕にして、前回と同じ中洲クラブに行った時のことです。0時近くになると、しきりに私のウォッチを馴染みの嬢が見ようとします。0時直前に確認し、そのわずか2~3分後にもう一度確認されました。すでに日付は変わっていました。なぜ、そんなに何回もこの時間にウォッチをみるのかを尋ねました。彼女は、私の「ロレックス・デイトジャスト」が、本物かどうかを確認したかっただけと応えました。
掲載情報
掲載誌 | 天草医報 |
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掲載号 | 2021年5月号 |
発行ナンバー | 144 |