中洲徘徊録4 ~ミシュラン逆バージョンの巻~

今時、キャバクラ通いをすると、キャバ嬢に、自分ではろくに使えもしないスマホにライン登録をされてしまいます。そして週末が近づくと必ずラインでのお誘いがくるようになります。馴染みとなり、指名を受ければ、時給とは別に、指名料が貰える仕組みなのでしょう。

 一回の入店で粘ったとしても、接待してくれる女性はたかだか3~4名。かたや、日本三大歓楽街の一つとされる中洲には、飲食店や風営法対象の店が約3500軒、そこで働く女性の数は約3万人といわれます。天草市の人口の約1/3強が、この狭い中洲にひしめいていることになります。なので、自分の好みの女性に出会うのは、運や偶然もしくは妥協ということになります。

これまで、女性にもてたことのない人生。キャバクラでの相手の女性くらいは自分で選びたいと思うのが人情でしょう。

そこで一計を案じました。クラブホステスやキャバ嬢の出勤時間は、大体7時半~8時半であることは、前回の徘徊時に知り得たことです。嬢達の最も行き交う街角に佇み、観察眼を働かせればいいのです。

そして、「これは」と思う嬢が通りかかった際には、ストーカーよろしく、後を付けて、嬢が入った店にそのまま客として入店すればいいのです。または、途中で声をかけ、「どこの店ですか?」と尋ねてみる荒技もあります。(大体は喜ばれますが、相手が嬢でなかった場合、変態と間違われる危険性もあります。)

 福岡でG20が開催されていた6月初旬の週末、そのアイデアを実行に移すことにしました。中洲交番前の、第5ラインビル角で佇みました。夕闇迫る、気持ち良い時間です。過ぎゆく人達をぼんやりと眺めます。

中国や韓国からの観光旅行と思われる家族連れの一団。結婚式の二次会、三次会と思われる白ネクタイスーツ姿の若い男性達の集団。福岡での会議が終わったあと中洲へ乗り込むサラリーマンの方々。消防団の慰安旅行と思しき団体。などに混じり、派手なワンピースやスーツで着飾った女性達がいろんな方向へと交差して行きます。

 そんな中で、一際目につくことがありました。さえない中年男性と腕組して歩く、派手な衣装で着飾った女性達の姿です。一緒に食事をした後、店へ同伴出勤する途中なのでしょうか。その姿を見ていると、段々、気持ちが萎えてくる自分に気がつきました。そのさえない中年男性達と、馴染みになりたいキャバ嬢を探そうとしていた自分の姿が重なってしまったのです。

 ふと右横を見ると、自分と同じ様に、通りを眺めるスーツ姿の中年男性がいます。その目付きは少々厳しく感じました。G20のための警護をされているのだと勝手に決めつけました。いろいろ大変だなあと、思わず慰労の言葉をかけてしまいました。すると、ニコリと笑われ、中洲の警護をしているのではありません。通り過ぎる人々をチェックしているのだといわれます。自分は、全国のあちこちの盛り場でクラブを数多く経営している会社(そんな会社があるとは!)の営業部長をしていますと、名刺を出しながら名乗られます。先程から見ていた人の群れの種類は、その部長から教えられたものです。そして、中洲の人の流れを観て、流行や時代の変遷とともに、経営している店の業種や内容をどう変化させていくかを考えているといわれます。しばらく話し込んでしまいました。

その後、部長の勤務される店の一つのクラブへと案内されました。その高級クラブでは、大変なおもてなしを受けてしまいました。私が自分のことを「中洲徘徊録」という題名のエッセーを書いていることを告げたからでしょうか。

そのクラブの看板嬢と思われる女性が、入れ替わり立ち代わりに接待してくれます。自分の身元をひた隠しにするといわれるミシュランの逆バージョンをやってしまったことを反省しながら店を出ました。

 週末になると、ラインでの誘いがくるのは言うまでもありません。

掲載情報

掲載誌天草医報
掲載号2019年9月号
発行ナンバー139
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