熊本地震 JMAT 参加報告記

2016年4月16日(土)午前1時25分,震度7強の地震が熊本地方を襲いました。

午前の診療中,県医師会よりFAXにて,益城町へのJMAT活動への参加要請がありました。翌日は天草地区の小児科日曜当番にあたっていたため,今日土曜日の午後しか参加できる機会はないと考え,直ちに午後のJMAT活動に参加する旨,県医師会へ連絡しました。益城町保健福祉センター「ハピネス」に午後2時に集合せよとのご指示です。診療を11時に切り上げ,診療所の男性職員に運転を依頼し出発しました。県薬剤師会の薬剤搭載車両がJMATに参加しているとのことだったので薬剤は持参せず,自分の救護活動に必要と思われる,補液セット,浣腸液,漢方薬の五苓散,聴診器,小外科セットなどを車両に積み込みました。本震直後で余震も多いことが予想され,安全確保に不安があったため,自院の看護師を帯同することは躊躇われました。そこで,十万山クリニックで診療中の妻に連絡し同乗してもらうことにしました。こうして3名のチームを作りました。途中本渡のコンビニで自分達用の食料品を調達しようとしましたが,どの店も品切れ状態でした。

目的地を車のナビにセットすると,何回リセットしても,三角から先は,不知火松橋経由で3号線を北上して東バイパスから入るルートしか示しません。有明海コースは,宇土の陸橋で通行止めになっていたのです。結局,指定された午後2時には間に合わず,到着したときにはほぼ3時になっていました。

益城町保健福祉センターの周囲は,すでに警察や消防,自衛隊,報道関係,一般住民の車両でごった返しており,駐車するスペースはありません。車は運転手にまかせて,県JMAT本部へいきました。県医師会担当理事の西先生により, 氏名など確認された後,配布されたJMATの青いベストを白衣の上から着用し,徒歩で,救護所の設置されていた広安小学校へ向かいました。途中,県医師会救急担当理事でもある天草地域医療センター名誉院長の植村先生ともすれ違いました。

救護所となった広安小学校の保健室では,AMDAのチーム(医師1名,ナース3名,事務1名,コーディネーター1名の計6名)が,医薬品,点滴補液セット,創傷被覆材などの処置道具,懐中電灯などを準備して,救護活動を開始したところでした。保健室には落下物が散乱しており,壁時計も1時25分を指したまま止まっていました。停電しているため,外から差し込む光だけが頼りでした。カルテ代わりにAMDAから2枚複写式の救護活動シートをお借りして,その用紙に所見や処置,処方内容を書きました。AMDAが準備した降圧剤,抗生剤,糖尿病薬等を使ってよいと言われたので,必要に応じて使わせていただきました。薬剤師会の担当者の携帯番号も渡されていましたので,何度も薬の問い合わせを試みましたが,結局1度もつながりませんでした。AMDAのコーディネーターは,連絡係として自転車で避難所間を何度も行き来してくれました。

症例は多岐にわたっていました。割れたガラスで足底を受傷した方が数名。腹痛を訴える中学生の女子と4歳女児。血圧が上がり,しきりに頭痛を訴えるパニック状態と思われる70代女性。ほかの避難所から,補液ルートが確保できないとのことで自衛隊員4名がかりで担送されてきた70代男性。本震で転倒した際,頭部を打撲した50代女性。昨夜からの咳き込みと喘鳴で眠れず周囲に迷惑になると連れてこられた3歳男児。

診療の介助には,AMDAの看護師やキャンナスからのボランティア看護師が従事してくれました。20人ほど診療したところで日も沈みかけてきたため撤収することにしました。AMDAチームのミーティングに私達も参加しました。不安症状が続く場合は再診してもらったほうがよいだろう,薬剤の在庫が限られているため処方は1~2日と短くしておこうという提案がありました。

益城町保健福祉センターへ戻りましたが,すでにJMAT受付には人がおらず,JMATの青ベストは後で返すことにして帰途につきました。

当時,広安小学校の避難者は約800名にのぼり,各教室に10~20名が段ボールや毛布の上に座ったり横になったりしておられました。運動場は自家用車がびっしり駐車しており,一家全員が車1台に避難しておられました。妻はAMDAの看護師とともに,具合の悪い人はいないか,教室や車両を尋ねて回っていました。

夕食の配給の時間になると,人が長蛇の列を作っていました。校舎裏に仮設トイレが10個ほど設置されていましたが,段差が高く和式で狭く,高齢者や子供には使用することが困難でした。また,震災当初,仮設入浴設備もなく,断水のため水道水の利用もできず,身体の清潔確保は不可能と思われました。

避難所での避難生活は,人間の基本的日常生活動作である「入浴・食事・排泄」が極めて困難となった状態だと考えることができます。まさに突然,要介護状態になったのです。内的要因にせよ外的要因にせよ,要介護状態に陥った状態で発症しやすい疾患には類似性があるように思われます。すなわち,脳卒中や心血管系リスクの増大,血糖コントロール不良,せん妄などのBPSDの発症,凝固線溶系亢進によるエコノミークラス症候群の発生,自律神経系の失調などに伴う諸症状です。それらの発症を予防するためにも,電気・ガス・上下水道・住環境など社会インフラの再構築が急がれるとともに,私たち医療に携わる者の支援活動も,避難所生活をされている人がいる限り,継続されるべきであると考えます。

 今回のJAMT参加で,再認識したことがあります。もし診療所の医師が身一つで現地入りしても,診療介助や薬剤の調達・連絡など,診療を支えるチームがなければ,診療活動ができないということです。

天草地域医療センターは,本震翌日の17日からJMATチーム派遣を開始し,連日日帰りで出動しておられました。今後再び,県医師会よりJMAT活動への参加要請があった場合は,天草地域医療センターのJMATチームの構成員となって参加するのが適当と思われました。

掲載情報

掲載誌天草医報
掲載号2016年5月号
発行ナンバー129
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