「この頃面白かったこと」

(ⅰ)トンビ対カラスの対決

 今年4月中旬のことだった。いつもの様にマウンテンバイクを駆って十万山登山行をしていた。大矢崎の自宅を出て、天草市役所の正面玄関前で信号待ちをしている時だった。

 上の方で、何かけたたましい音が、沸き起こった。空を見上げると、一羽のトンビと一羽のカラスが、ガチンコで喧嘩をしていた。

 やはりガタイの差か、トンビの方が優勢だった。カラスが後ろに押され気味となった時、別のカラスが一羽、加勢に出現した。カラス2対トンビ1の戦いとなり、今度はトンビが劣勢となった。その時だった。はるか上空より、一羽のトンビが、攻勢をかける2羽のカラスに、ほぼ垂直の急降下で体当たりした。2羽のカラスは体制が崩れ、1羽のカラスの口から長いひも状のものが、吐き出された。(たぶん、大きなミミズだったと思われる。)その吐き出したものを、先ほどの押され気味だったトンビが、一瞬で口にくわえ、急降下爆撃をしかけたトンビと一緒になって上空遥かへ飛び去った。

 そのわずか数秒間で起きた出来事を何度も思い返すうちに、トンビとカラスのセリフが頭に浮かんできた。かくの如しである。

メストンビ「それは、ワタシが先に見つけた得物よ。横取りしないで!」

メスカラス「先に見つけたって云っても、先に手に入れた者勝ちでしょ。これは私のものよ。こどもたちが沢山待っているのよ。」

メストンビ「返してよ。返さないのなら、力ずくでも返してもらうわ。」

そこへ見かねたオスガラスが参加。

オスガラス「これは先にうちのかあちゃんが手に入れた物だべ。今頃、そんな横暴なことするなら、こっちにも考えがあっど。どうだ、オレも参加して2対1だ。さっさとあきらめれ。」

この様子を先程からメストンビの旦那が、上空から見ていた。女同士の喧嘩なら、黙って見ていようと思っていたのだが、オスガラスが参入したため、黙っていられなくなった。

オストンビ「オナゴん喧嘩に、オトコがちょっかい出すんじゃねーよ。このオタンコナス!」

このようにして、トンビ夫婦の勝ちが決定したのである。

(ⅱ)虎の威を借るキツネになってしまった件

 今年の5月連休後半のことであった。昼、ソバを食べたくなり、夫婦で本渡のあるソバ屋へ行った。駐車場に車を入れると、そこには、後部エンジンルームのガラス製と思われるボンネットを大きく開けたままの真っ黒なフェラーリが駐車していた。エンジン冷却のために開けていたのだろう。いななく馬が描かれた黄色のエンブレムでフェラーリだとわかった。北九州ナンバーだった。

 妻が、「そば屋の中に入って、そのオーナーらしき人だと思っても、絶対、いつもみたいに気安く話しかけたらいけんよ。」と北九州弁で私に云った。入店し、そばを完食し、妻より先に外に出た。

 再びフェラーリの後ろに立ち、エンジンルームを眺めていた。4気筒のエンジンが、2列並行しており、V8エンジンであることがわかった。

 その時、フェラーリの後ろのスペースに、これまた真っ黒な大型のRV型メルセデスが、駐車するところだった。AMGとのエンブレムが見える。2千万円は下らないだろう。

 メルセデスから30代前半と思われる男女が降りてきた。男性はスリムで、ハンサムだった。女性も、天草ではめずらしい明るい花柄模様のワンピース姿だった。「今日は高価な車が、このソバ屋に集まる日だなぁ」と思っていた。思わず、その降りてきた30代の男性にそれをそのまま口にしてしまった。

 男性は私に顔を向け、私の後ろのフェラーリに目をやった。そしてその後、下を向き俯いたままソバ屋へと入って行った。彼が、私の後ろのフェラーリを私の車だと勘違いしたのがわかった。何か申し訳ないような気分になった。

 その後、フェラーリのオーナー夫婦が、店から出てこられた。天草下島を一周して、北九州へ帰られると笑顔で応えてくれた。

 セルスタート直後のフェラーリのエンジンサウンドは、物凄い音だった。

 後で調べると、そのフェラーリの値段は6千万円程だった。

(ⅲ)指は覚えていた。

 今年6月のことだった。毎日の午後、小・中学生コロナワクチンをしていた。

 本渡中心部にある私の出身と同じ小学校の女の子が、ワクチン前の問診、診察の場に入ってきた。あんまり可愛いので、部活は何をしているのかを尋ねた。すると、吹奏楽部ですと応える。何の楽器を弾くのかと、さらに尋ねた。すると、「トランペットです」と答えてくれた。ほーっと思った。私も同じ小学校の鼓笛隊でトランペットを吹いていたからだ。

その数日後、今度は、中学生の女の子のワクチンの時だった。今回もあんまりかわいいので、再び、部活は何をしてるのかを尋ねた。その中学生女子は、「吹奏楽部です」と応える。再び楽器を訊いた。すると、またしても「トランペットです」と答えるではないか。

その日の夜、風呂に浸かりながら、トランペットのことを思い返していた。まだ自宅の和室の片隅に、埃をかぶったまま置いてある。50年以上前に私が使っていたものだ。熊本市の上通りにあった楽器店で父が買ってくれたのを覚えている。

しばらくすると右の第2,3,4指が、勝手に動き出した。

頭の中では「レ、レ、レーミファミレファラ~」と音楽が流れ出した。しばらく、頭の中の曲をきいていると何の曲かが判った。それは、鼓笛隊でよくひかされていた、まんが「巨人の星」のメインテーマだった。

掲載情報

掲載誌天草医報
掲載号2022年9月号
発行ナンバー148
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次