人間万事塞翁が馬 Written by Eiichi Nakamura

「500馬力越え,4本出しマフラー」

天草医報

昨年12月末,友人夫婦との会食のため,車で福岡に出かけた時のことです。九州自動車道上り,植木インターを過ぎた頃,遥か前方に真っ赤な車が見えました。地に這いつくばるような恰好で,追い越し車線をゆったりと走っているようにみえます。車種を確認したくなり,アクセルを踏み込みました。しかし,なかなか追いつけません。それでも,やっとのことで車種の判別ができる距離まで近づきました。リア中央には黄色の跳ね馬のエンブレム,その真下にはマフラーが3本横1列に大きく口を開けています。車幅を追い越し車線いっぱいに広げ,悠々と走っています。その圧倒的な姿に,周囲の車も車間距離をあけて走っているようです。オーラに惹きつけられ,その後ろをしばらく,ハエがたかるように付いて走りました。その後すぐに諦めて,自分の守備範囲の速度に戻りました。赤いスポーツカーは,あっという間に視野から遠ざかっていきました。
自動車とは,私たちにとって,一体どんな存在なのでしょうか。
 シンデレラは,継母と二人の義姉にこき使われて全く自由のない身の上でした。辛い境遇にも負けず,勇気と優しさを胸に,明るく働いていました。あるとき,お城でひらかれた舞踏会に,シンデレラは連れていってもらえませんでした。悲しみにくれたシンデレラの前に,魔法使いのおばあさんが現れ,かぼちゃを四頭立ての黄金に輝く馬車(COACHというそうです)に変えました。シンデレラを愛と自由の世界へと運んだ車は,泥のついた荷駄車などではなく,あくまでも白馬4頭にひかれた黄金に輝く車でなければならなかったと思います。
 我々開業医もまた,時間や建物に縛られた状態にあります。四六時中必死で働いているわけではありませんが,例え暇なときでも,診療時間内は臨戦態勢にあり,勝手に外出するわけにはいきません。年休があるわけでもなく,休日当番医に当たっていない日曜日と祝日のみが休日となります。生来が怠け者なだけに,私は特にそれを苦痛に感じます。従って,診療時間から解放されたとき,車は,公共交通機関のない所に住む私を,自由の世界へと運んでくれる「魔法の乗り物」ということになります。そして,私にはフェアリーゴッドマザーはいないので,どんな魔法をかけてどんな乗り物にするかは,自分の選択ということになります。セルフ“ビビディ バブデブー”。
車種の選択は,その人の趣味やライフスタイルを反映しています。つまり,性格や育ちなどからくる考え方が,大きく影響を与えているような気がします。
今の車を購入しようと,あるMRと話をしていた時のことです。彼は,「もし,ホテル日航熊本の地下駐車場に自分の車を止めた際,同じ車種で,より排気量の大きい上位グレードの車が横に止まったら,どないしはります。身の置き所がなくなるのとちゃいますか?」と,関西弁ではっきりと忠告をしてくれました。それにもかかわらずやはり,自分の選んだのは,最も排気量の小さくグレードの低いものに落ち着きました。車の色についても迷っていました。別のMRは,「男なら,当然ガンメタでしょ!」と明確なアドバイスをくれました。しかし,結果は,明るくおとなしいシルバー色となってしまいました。
自分の体格がなかなか変えられないのと同じく,性格もなかなか変えることはできず,結局他人に相談した甲斐もなく,従来と同じ思考パターンを踏襲していました。いつの日か,今までの自分のチープな考え方や,周囲からどう思われるかという窮屈な想いから解放され,思い切って500馬力以上,且つ4本出しマフラーのスポーツカーを自分のものにして,愛と自由の世界へ旅立ちたい,と秘かに憧れています。
ちなみに九州自動車道で遭遇した赤い車は,調べてみましたら,「フェラーリ458イタリア」という車で,578馬力,価格も2920万円也,の超弩級スポーツカーでした。