二つのバカラ

たまに、シャンパンを飲みたくなる。その際、モエ・シャンドンやヴーヴ・クリコであれば、シャンパン購入時に付録のサービス品として付いていたグラスでも構わないのだが、ドンペリだけはグラスを選んでしまう。選ぶのは、「Baccarat」のドンペリ・フルートだ。その透き通った透明感が好きだ。そのシャープな佇まいが好きだ。その落ち着いた重量感も好きだ。冷たく硬質な手触りも好きだ。グラスの底にカットがあり、飲み干してしまうまで、ずっとグラスの底から生まれた小さな泡の筋が水面で消えてしまうまでつながっているのを見るのも好きだ。

「Baccarat」のグラスの歴史は、18世紀半ば、フランス王ルイ15世により、フランス東部のロレーヌ地方にあるバカラ村に、ガラス工場設立が許可されたところから始まる。30%の酸化鉛を含むクリスタルガラスだ。

 5年前に亡くした義父は、未使用のままの赤い箱に収められたそのままのバカラグラス「ロマネ・コンティ」のペアセットを遺品として残した。その風船玉のようなワイングラスは、まだ使っていない。いつか必ず、それを使ってロマネ・コンティなる赤ワインを飲んでみようと思っている。

 ところで、バカラというワードでもう一つ思い出されるのは、カジノゲームのバカラだ。YouTuberでも有名な、某製紙会社の前会長が106億円負けたことでも知られている。
 2枚のトランプカードの合計の数の一桁の数の大きさをバンカーかプレイヤーにかけて勝負をするカジノだ。確率は、常に1/2。この単純なゲームが、とにかくはまるらしい。何時間も座り続けてやる勝負は、一瞬の時間と感じるらしい。中には、釜山やマカオなどのカジノ場で、寝る時間と食事の時間以外を全てバカラゲームに注ぎ込んで、何か月も過ごすプレイヤーも居るらしいのだ。
 そのバカラゲームの名前の由来を調べてみた。何度ググってみても、正解と思われる答えは出てこない。かろうじて出てくるのは、古いイタリア語で、「0」または「破産とリセット」または「死と生」を意味するとのことだった。

 ところで、古代エジプト発祥のユダヤ神秘学「カバラ」においても、カバラ教秘術というものがある。各人の生まれた日付を使った占いだ。
 たとえば、私は、1959年1月26日生まれなので、
1+9+5+9+1+2+6=33 3+3=6となる。
 私の妻は、1958年4月19日生まれなので、
1+9+5+8+4+1+9=37 3+7=0となる。
これを、バカラゲームにとなえれば、私は6で、妻は0であり、私の勝ちとなる。

そんなことを考えていた4月のある日、妻から自分の66年前の母子手帳が見つかったと告げられた。その母子手帳によると、妻の本当の誕生日は4月9日であるらしい。義父が、市役所に届け出た日を、誕生日と誤って記載したらしい。とすると、  1+9+5+8+4+9=36 3+6=9
バカラゲームでは、9はナチュラルと呼ばれ最強の数字である。私6:妻9で、やはり私の負けが確定した。カバラ数秘術のやり方と、バカラゲームのやり方は、数字を足していき、その一桁の数字で勝負をしたり、人生を占うという点で共通している。

 ロータリーやロトくじのロトということばが、タロットカードから派生してきたように、古代から中世にかけて、ことばは良く似たものへと変化していくこともある。従って、バカラという言葉は、カバラからやってきたのでは?と思うようになった。
 そういえば、カバラでの魔法修行に使われる水晶玉は、どこまでも透明なクリスタルが使われる。「Baccarat」のグラスのように。

 因みに、後で調べてみるとカバラ教秘術では、11・22・33のゾロ目はその二つの数を足さなくて良いらしい。私の誕生数字は33であり、足さなくてもいいのだ。そのゾロ目は、スピリチュアルナンバーまたはマスターナンバーとも呼ばれ、他の数字とは次元の異なる世界に住むものらしい。また、バカラ賭博においても、ゾロ目は全て胴元の勝ちになる。ということで、自分の溜飲を収めた。

掲載情報

掲載誌天草医報
掲載号2024年7月号
発行ナンバー153
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