介護保険事始め ①

デイケアやデイサービスといった通所サービスは,高齢者の社会的接触の機会を増やし,かつ,家族の介護負担を軽減させるという,2つの大きなメリットを有しています。

五和町二江地区に夫婦で開業してほどなく,診療所の住居部分だったところを改築し,細々とデイケアの運営を開始しました。つまり,当初は2人の医師が勤務する診療所にデイケアが併設されていたことになります。

その後,新たに取得した近所の土地に専用施設を建築し,デイケアをそこで提供することにしました。この時点では,診療所に医師1名,診療所とは異なる所在地でのデイケア施設に医師1名が配置されている格好です。

その数年後,妻は本渡の広瀬地区に小児科医院を別個に開業し,二江の診療所とデイケア,本渡の小児科医院をまとめて,医療法人経営へと転換することとなりました。

ところが,その際,ちょっと面倒なことに直面しました。保健所から「医師1名の診療所においては,近隣といえども,所在地の異なる事業所でのデイケアは認められない」と指摘されたのです。ただし,「法人設立後は,医師が不在であっても,デイケアの事業所をデイサービスの事業所としてなら運営できる」というのです。

法人を設立しデイサービス事業所の指定を受けるまでには,約半年という期間がかかります。せっかく軌道に乗ってきた通所サービスです。半年間も利用者を放置するわけにはいきません。そこで,診療所内で理学療法の場として使用していたスペースで,再びデイケアを実施することにしました。古巣へ帰ったため,それまでデイケアを運営していた建物は一旦空き家となりましたが,法人設立後は,新たにその建物でデイサービスを行うこととなり現在に至っています。

恥を忍んで申しますと,当時の私には,デイサービスというのはデイケアの別名に過ぎないという認識しかありませんでした。同じサービスを提供するのになぜ法人化する必要があるのだろうか,医師不在でも提供できるデイケアのことをデイサービスというのかな,という素朴な疑問を抱きつつ日常診療に従事していました。そんなわけで,通所サービスの利用が適当と思われた患者さんや通所サービスを希望された患者さんの主治医意見書では,自院のデイケアを廃止しデイサービスを運営するようになってからも,相も変わらず,『医学的管理の必要性』の通所リハビリテーションの欄にチェックをしていました。通所リハ(デイケア)と通所介護(デイサービス)は同じものと思っていたので,そうすることに何の疑問も持ちませんでした。

ところが,私の認識は間違いであると判明する日がついに到来します。懇意にしていた居宅介護支援事業所のケアマネジャーの言葉から,デイケアとデイサービスとは介護保険制度において別個のサービスであることに気づかされたのです。彼は「先生のデイサービス施設を利用したいと患者さんが希望されても,先生の主治医意見書には『医学的管理の必要性』の項目で通所リハビリテーションにチェックがしてあるので,デイサービスが利用しにくい状況になっています」と指摘してくれました。

デイケアは医療保障の体系から派生したサービスであり,一方,デイサービスは介護保障の体系から派生しており,その生い立ちや性格は全く異なるものと考えねばなりません。

まさにソクラテスの言う『無知の知』です。福祉サービスについて自分の知識がほとんど欠如していることに気づいた私は,介護保険制度を一から勉強しなければと思い,その手段の1つとして介護支援専門員実務研修受講試験を受験することにしました。30年前の医師国家試験の勉強会のころを思い出しつつ(当時は,不勉強な学生でしたが),6月ごろから過去問中心に夫婦で勉強会を始めました。

インフォーマルサポート,レスパイトケア,アウトリーチ,ICFなどの用語は,介護関係に造詣の深い先生方は先刻ご承知の言葉かもしれません。しかし,私にはすべて初見の用語でした。

勉強を進めていくうちに,介護保険制度が,人間の生活の中で『入浴,食事,排せつ』を最も重要な生活動作としてとらえ,その自立を最後まで後押ししているということ,そして,本人の自由な意思をどこまでも尊重していくという姿勢が徹底して貫かれているということを改めて感じました。

ケアマネ資格試験の過去問に出てくる正誤問題に「介護保険制度の保険給付における医療保障の体系は,介護保険制度と密接な関係を有している。」という一文があります。同様のサービスが医療保険からも介護保険からもオーバーラップして給付される可能性がある場合には介護保険からの給付が優先される,つまり,一旦認定を受けた要介護者または要支援者は原則として介護保険からの給付を受けることになる,というのが,この文の意味するところだそうです。また,医療依存度の高い要介護者のケアプランには,通所系サービスのうち通所リハビリテーションを,短期入所系サービスのうち短期入所療養介護を,それぞれ位置付けるべきであるという意味もありそうです。

夫婦共に無事に合格はしたものの,介護保険制度全体の理解には,まだまだ,遠い道のりです。医療・介護保険制度のより深い理解ができるよう努力をして,“高齢者の方々が,人生の締めくくりの時を,より穏やかに過ごせる”一助になりたいものです。

掲載情報

掲載誌天草医報
掲載号2012年1月号
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