ウイスキーを毎夜のように嗜むようになってから、2-3年は経ったろうと思う。
この頃、主に飲むのは、サントリーの「山崎」か「響」だ。そして、時に口直しというか味の違いを確かめようと、スコッチウイスキーの「MACALLAN」も飲む。スコッチウイスキーではあるが、やはりサントリーがスコットランドに所有する蒸留所で造られるウイスキーだ。その際、主に飲むのは「MACALLAN12」とラベルに書いてある、12年間スパニッシュオーク樽で熟成されたものだ。樽には、その他にもDoubleと Tripleのオーク樽のものもある。18年ものの「MACALLAN18」も、時々飲む。オーク樽から沁みてくるのだろう、香りがその年数により微妙に異なるのだ。
ところで、「MACALLAN」とラベルに書いてあるのだが、なぜ、「マッカラン」と発音されるのかが、ずっと疑問だった。「マッカラン」と呼ぶのであれば、そのスペルは、「MACCALAN」となるのでは?と考えていたのだ。
「MACALLAN」は、本当は、どう発音されるのかを、この数年間、無意識のところにそのまま置き去りにしていた。
昨年6月末のことだった。4回目の能登半島地震の医療介護支援に入った時のことだ。
3月はじめで熊本県医師会によるJMAT活動は終了していたので、3月下旬、3回目の支援活動からは、自分の個人での活動としての支援だった。したがって、金沢の石川県庁へ立ち寄る必要もなかった。4回目ということもあり金沢の市街地については、すでに方向感覚や土地勘のようなものも芽生えてきていた。
嘱託医を務める障害者施設の看護師と介護士を帯同しての、3泊4日のスケジュール。最終日は金沢市の中央区片町にあるホテルに宿泊した。そこは金沢で一番の繁華街でもあるらしい。医療介護支援を終え夕方となり、看護師介護士の二人を連れホテル近くの日本郷土料理店へ入った。一緒に来てくれた二人とともに、金沢の治部煮と能登の清酒を味わいたかったからだ。能登の風土は青竹の筒に入れられた日本酒となって、自分の身体に沁み込んできていた。今回の活動の最終日には一人で、その施設のある志賀町富来地区から輪島までをレンタカーで行ってもみた。金沢市から能登の輪島までは、熊本市から天草の最南端である牛深までの距離とほぼ同じくらいであること。その途中の国道249号線から見える山や海の景色、周りの雰囲気も天草とよく似ているということ身体でわかっていった。
三人で、金沢の郷土料理を楽しんだあとは二人をホテルへ帰し、自分ひとりでさっきの料理店の交差点反対側に見えたバーへと向かった。店内はかなり混んではいたが、カウンター席はまばらに空いていた。カウンターやウヰスキーボトルの置かれた棚は、焦茶色で統一されていた。柔らかなオレンジ色の光が上から降り注いでいる。ボーイに頼んで、「MACALLAN12」のシングルの水割りを注文した。
ボーイは、その水割りを作ったあと、そのボトルを私のカウンター席の目の前においたままにした。
ふと自分の左横を見ると、50代後半くらいかと思える白人のカップルが坐っていた。私のすぐ左隣は男性のほうだった。白いヒゲがそのままの白人男性の前には、「山崎12」のボトルが置いてあった。
「MACALLAN12」の水割りをお代わりしながら、ゆっくり2-3杯飲んでいた頃、自分が日頃から抱いていた疑問がふとよみがえってきた。例の「MACALLAN」の発音についてである。左横の白人男性に尋ねてみようと思うのだが、どこの国から来たのかもわからず、母国語が何かもわからず、はたして英語が通じるのかどうかもわからない。また英語が通じたとしても、自分がそれをちゃんと英語で尋ねられるかどうかも自信がない。
いつも持っているショルダーバックに入ったノートブックを取り出し、ボールペンを握った。「How do you say this bottle’s name?」と書いてみた。そして、そのノートを、「MACALLAN12」のボトルを指差しながら、左横の白人男性に差し出してみた。白人男性は、最初とまどいながら私の顔を見たり、ノートに書かれた英文の文字を眺めたり、自分の左横に座る女性と何かボソボソと会話を交わしたりもしていた。
そして、ついに、おもむろに、「マカラン」とつぶやいたのだ。ちゃんとはわからなかった。「リピート」と返した。
「マカラン」と再び、返ってくる。やはりはっきりと聴こえない。「リピート」と再び聞いた。またもや「マカラン」と返ってくる。迷惑だったろうと思う。
私は10回くらいくり返し聞いてしまったのだ。10回くらい聞くと、やっと、「MACALLAN」は、「マッカラン」ではなく、マを強く発音する「マカラン」なのだということがわかった。
その後、同じノートに、互いにペンをとったりとられたりしながら、文章で興味深い話をやりとりした。
彼らは、ドイツとフランス、ベルギーに囲まれたルクセンブルクという国から来ていた夫婦だった。いろんな文化や考え方が交差している国でもあるのだろう。私が、カバラ数秘術の話を英文で書いて,ソウルナンバーの話しをしていると、彼は私のペンをとり書き始めた。「カバラ」とは、「コブラ」のことで、「蛇」のことをいうというのだ。世界保健機関(WHO)のロゴや、いろんな医療系の機関の象徴にも使われている。たしか、日本医師会のロゴにも使われてはいなかったか。ギリシャ神話にも出てくる「アスクレピオスの杖」に巻き付いている蛇のことだと教えてくれる。しかもその巻き付く蛇は、「力(E)」と「物(M)」 が交互にそのカタチを変えながら昇華していくことを意味しているという。その体系は「セフィロトの樹」とか「生命の樹」とかの名前で呼ばれ、ユダヤ神秘主義の根幹をなすカバラ哲学とも言われる。
金沢での彼との出会いに感謝した。
その後、しばらくして、何かの拍子に、フランスの有名なお菓子のマカロンも、スペルは違えど、ウイスキーの「MACALLAN」と同じ語源からきているということを知った。
そういえば、ウチの妻も、マカロンのお菓子が大好きだ。
男はマカラン、女はマカロンということかもしれない。
掲載情報
掲載誌 | 天草医報 |
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掲載号 | 2025年1月号 |
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