人間万事塞翁が馬 Written by Eiichi Nakamura

介護保険事始め②~サービス担当者会議への医師参加~

天草医報

過疎地域の開業医となって12年。小児科を中心に修練してきたにもかかわらず,来院患者の多くは高齢者です。慢性疾患の管理をしているうちに要介護状態へと進行していくケースが,当診療所でも増加しています。かかりつけ医である私のほうから要介護の申請を提案する場合もあれば,保険者から突然に「主治医意見書」が送られてきて記載を求められる場合もあります。
そんな中,患者さんの担当ケアマネジャーから,「近々,利用者の自宅でサービス担当者会議を開催するので参加してもらえませんか?」と連絡がくるようになりました。一昨年までは,介護関係のことにあまり興味がなく,特段の理由もないのに欠席の返事ばかりしていました。欠席の連絡をすると,今度は追い討ちをかけるように,担当ケアマネジャーから「サービス担当者会議に出席できない理由書」もしくは「居宅介護支援計画連絡票」という書類が送られてきて記載を求められます。「知らぬ存ぜぬ」では済まないのです。日々の診療に追われている立場からすると,書かなければならない書類が1つ増えることは大きな苦痛です。ただでさえ,診療情報提供書をはじめ,生活保護を受けている患者の医療要否意見書,入院患者の入院証明書,学校や保育園などに提出する各種診断書,介護保険の主治医意見書など,実に多彩かつ多数の書類と格闘する毎日。それに加えて,「居宅介護支援計画連絡票」なるものが加わるわけで,腹立ちまぎれについ,ぞんざいに処理してしまうこともありました。「診療」が医師の仕事だと思っていたのに,現実には業務の半分は「書類がき」だなあと思うこともしばしばです。
しかし,今年,自分自身が介護支援専門員実務研修を受講したことにより,ケアマネジャーがケアプランを作成する際いかに多大な労力を費やしているか,また,サービス担当者会議において医師の参加がいかに重要な意味をもっているかが,少し理解できるようになりました。これまで,無下に断り続けてきて申し訳なかったなあと反省することしきりです。今では,サービス担当者会議への参加要請があると,積極的に参加するよう心がけています。
サービス担当者会議に参加する旨の連絡をすると,ケアマネジャーは,ほとんどの場合,医師の都合を最優先させて会議の予定を組んでくれます。医師以外にも,利用者や家族,民生委員,各種の居宅サービス担当者の都合もあるので,その調整だけでも,大変な作業になるだろうと思われます。
サービス担当者会議の所要時間は約1時間。その間,貴重な診療時間を割いて会議に参加していることになります。ここに至って1つの疑問が生じました。サービス担当者会議への参加は,どのような名目で報酬化されるのだろうかということです。サービス担当者会議において医療的処置についてアドバイスしたり,居宅介護支援計画連絡票を作成したりといった行為は,医師でなければできない業務です。単なるボランティアであってはならないと強く思います。医事職員に,この点について尋ねてみますと,サービス担当者会議への参加は,診療報酬の点数表を見ても該当する項目はありませんとの素っ気ない返事でした。なるほど,医療保険では報酬を算定できないのですね。そこで,今度は,事務長に指示し,県の高齢者支援課サービス班へ問い合わせてみました。するとまた,「どの部分についての問い合わせなのか明確ではない。介護報酬点数表(青本)に記載がある事例についてしか答えられない。」という,けんもほろろの回答だったとのことです。当方の問い合わせが的確でなかったものと思われます。
サービス担当者会議への参加は無償奉仕なのかと諦めかけたり,いやそんなはずはないと再び疑念を抱いたりする日々が続きました。
さて,最後の手段はネット検索です。「サービス担当者会議と医師参加」というキーワードでググってみますと,居宅介護支援計画連絡票の文書作成料は,主治医意見書作成の報酬に含まれているとする意見がある一方,ケアマネに対し,直接,文書作成料を請求しているケースまであり,いろいろ錯綜しています。また,サービス担当者会議への参加については,多くの医師が報酬請求を諦め,無償奉仕しているという事実にもつきあたりました。しかし,これでは到底納得できません。そこで,今度はキーワードを「居宅療養管理指導,算定要件」に変えて検索してみました。すると,ついに,求めていた情報を発見することができました。厚生労働省老健局高齢者支援課長から各都道府県介護保険主管部(局)長にあてた通知文書(老高発0316第1号,老振発0316第1号,老老発0316第5号)を読むと、以下のように結論付けてよいのではないかと思います。
『医師の居宅でのサービス担当者会議への参加については,
ⅰ)訪問診療を行っている患者の場合:
訪問診療日に居宅にてサービス担当者会議に参加すると
訪問診療料 及び 居宅療養管理指導費(Ⅰ)
ⅱ)訪問診療を行っていない患者の場合:
往診時に居宅にてサービス担当者会議に参加すると
往診料 及び 居宅療養管理指導費(Ⅰ)
ⅲ)会議に参加せず、文書のみでの参加(居宅介護支援計画連絡票)の場合:
計画的かつ継続的な医学的管理をしている患者の場合
居宅療養管理指導費(Ⅰ)
<*在宅時医学総合管理料を算定している場合は,居宅療養管理指導費(Ⅱ)>
を算定できる。
注意すべきは、ケアマネから電話や口頭で指導・助言を求められ、口頭で答えた場合は、
居宅療養管理指導費の請求はできない。電話での問い合わせには、必ず文書等(ファクス、メール等)で返答し、その写しをカルテに添付保存すれば請求可能。』
いうまでもなく,訪問診療料及び往診料は医療保険上の算定項目であり,居宅療養管理指導費は介護保険での算定項目となります。これで、すっきり合点がいく結論に達することができました。
サービス担当者会議は,ケアプラン作成(居宅介護支援)のために開かれるものです。そして,居宅介護支援については,介護保険からは10割給付(利用者負担なし)とされています。しかし、医師が参加することにより居宅療養管理指導費が請求されることで,利用者には1割負担が発生します。実は,そこにこそサービス担当者会議への医師参加が進まなかった本質的理由があるのではないかと推察しました。
団塊の世代が後期高齢者となる2025年に向け,医療・介護の分野では「地域包括ケアシステム」の構築が最重点課題とされています。医師には,介護保険の領域へも積極的に関与していくことが求められています。しかし,報酬支払体系が医療とは異なっていることが,介護分野への「参入障壁」となっているのではないでしょうか。医師の参加が必要とされる場へ,尻込みすることなく,積極的に参加するためにも,その報酬について,きちんと整理しておかなければならないと考えています。