人間万事塞翁が馬 Written by Eiichi Nakamura

松山城行

その他

あんなに楽しかった一夜も明け、久しぶりに会った同級生の顔が点々と見える中での朝食も終わりました。武冨夫婦と朝食を同席していましたが、トイレのため中座して部屋に戻ったので、後は別行動にしようと電話で別れを告げました。      
飛行機は、午後1時過ぎです。何をして過ごそうかと考え、せっかく松山へ来たのだから、せめて松山城見学でもして帰るかとホテルを出ました。幸い雨も降らず、炎天でもなく、歩くには丁度良い塩梅の空模様でした。ホテルを出てすぐの大きな交差点を、松山城へ上るロープウエイのある方へと曲がりました。レトロな雰囲気のある道で、街灯には、いろんな俳句が書かれたポスターが垂れ下がっています。一つ一つ読みながら歩いているうちに、「松山は、言葉が力を持つことをアピールしている町なんだなあ」と改めて思いました。ゆるやかな坂道でしたが、メタボな私には少々負荷がかかり、次第に汗ばんできました。左側に、今治タオルを売る、ガラス張りのしゃれた店がありました。冷房が効いた店内で少し休憩をとることにして中へ入りました。妻がタオルを物色している間、所在無く、ガラス越しに外をながめていると、男性が真っ赤なポロシャツを着た男女二人連れが通りかかりました。松山で赤シャツはまずいだろと思いながらよく見ると、それは先程別れたばかりの武冨夫婦ではありませんか。すぐに店の自動ドアから顔を出して、「少し、涼んでいかれませんか?」と声をかけると、店の呼び込みと思ったのか、ちょっと怪訝そうな顔をしましたが、すぐに私と気づき、笑いながら店内へ入ってきました。少し汗がひいたので、再びロープウエイをめざし、4人連れ立って歩きました。
ロープウエイ乗り場へ着きました。松山城へ上るには、ロープウエイとリフトの2つの方法があります。風を感じたいなと、迷わずリフトを選びました。学生時代にスキーに行った時以来の30数年ぶりに乗るリフトです。リフト支柱には風鈴が下げられ、涼しげな音が響いていました。少し緊張しながらも、約6分間の空中散歩を楽しみました。武冨の嫁さんは、怖くて震えたそうです。
しばらく歩いて、いざ松山城へ。古い木造の急な階段を何回も登り、ようやく天守閣へたどり着きました。四方に窓が大きく開かれていて、7月の涼しい風が心地よく吹き通っていました。また、天守閣にはボランテイアと思われる観光ガイドのおじさんがいて、瀬戸内海に沈んだ戦艦「陸奥」のこと、日本海軍の誇った戦闘機「紫電改」のこと、高知県に墜落したB29の話を元にした映画「私は貝になりたい」のことなど、懸命に話してくれました。
帰り道、喉が渇いて、小さな喫茶店へ入りました。通りに面した窓際の4人席に座り、私はアイスコーヒー、妻はしょうゆもち付抹茶、武冨夫婦は仲良く伊予のみかんジュースを注文しました。アイスコーヒーを一口飲んだ時、自分もみかんジュースにすればよかったと後悔しました。店の主人は、80代前半くらいの老夫婦で、その雰囲気は、学生の頃さんざん通った小金井の喫茶店と同じく、昭和の“あの頃のまま”です。しかし、目の前には既に50台後半にさしかかった中年男がニコニコしながら座っていました。その懐かしい顔をつくづく見ていた時、大学卒業以来、30数年の月日が確かに流れたことを実感しました。
武冨夫婦と電車通りの交差点で別れました。彼らは、道後温泉へ行くとのことでした。タクシーに乗り、松山空港へ向かいました。飛行機に乗り込む直前、振り返ってもう一度松山の空を見上げました。元気で同窓会に出席できて良かったと思いました。みなさん、お元気で。また、お会いしましょう。